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松山地方裁判所西条支部 昭和48年(ワ)147号 判決 1974年9月19日

本訴原告(反訴被告)

横内実

右訴訟代理人

佐伯継一郎

本訴被告(反訴原告)

石川茂安

主文

本訴原告(反訴被告)の本訴請求はこれを棄却する。

反訴原告(本訴被告)の反訴請求はこれを棄却する。

訴訟費用に本訴反訴を通じこれを二分し、その各一を夫々の負担とする。

事実

(以下本訴原告兼反訴被告を単に原告といい、本訴被告兼反訴原告を単に被告という)

甲  本訴について

第一、申立

(原告)

被告は原告に対し、別紙目録<略>記載の土地(以下本件土地という)を明渡せ。

本訴費用は被告の負担とする。

との判決、並びに仮執行の宣言。

(被告)

原告の請求を棄却する。

本訴費用は原告の負担とする。

との判決。

第二、主張

(原告の本訴請求原因)

一、(一)本件土地はもと訴外石川義高の所有であつたが、昭和四三年六月二一日訴外堀池庄太郎がこれを買受け、更に昭和四八年八月二六日原告がこれを買受けたものである。

(二) 右については、昭和四三年七月九日訴外石川義高から原告へ直接農地法第三条の許可がなされ、且つ同年一〇月二二日右と同様の所有権移転登記手続がなされている。

二、被告は本件土地を占有している。

三、よつて、原告は被告に対し本件土地の明渡を求める。

(本訴請求原因に対する被告の答弁)

請求原因一項(一)のうち、本件土地がもと訴外石川義高の所有であつたことを認める。その余の請求原因事実は全て不知。

(被告の本訴抗弁)

本件土地は訴外石川義高から昭和四三年六月一日訴外大西豊がこれを買受け、更に同年九月一七日被告がこれを買受けたものである。

尤も、右の各売買についてはいずれも農地法所定の許可を得ていない。

(本訴抗弁に対する原告の答弁)

全て不知。

乙  反訴について

第一、申立

(被告)

原告は被告に対し、本件土地の所有権移転登記手続をせよ。

反訴費用は原告の負担とする。

との判決。

(原告)

被告の反訴請求を棄却する。

反訴費用は被告の負担とする。

との判決。

第二、主張

(被告の反訴請求原因)

一、本訴抗弁事実と同一であるからこれを引用する。

二、本件土地の登記名義は原告にある。

三、よつて、被告は原告に対し本件土地の所有権移転登記手続を求める。

(反訴請求原因に対する原告の答弁)

請求原因一項は不知。同二項を認める。

(原告の反訴抗弁)

本訴請求原因一項と同一であるからこれを引用する。

(反訴抗弁に対する被告の答弁)

本件土地がもと訴外石川義高の所有であつたことを認める。

その余の抗弁事実は不知。

丙 証拠<略>

理由

甲本訴についての判断

<証拠>によれば、原告の本訴請求原因(一)(二)の各事実が認められるところである。

ところで、本件土地はいずれも農地であつて、農地の売買等所有権移転行為をするには農地法第三条又は第五条所定の許可を要し、これのない行為は無効である(農地法第五条第二項第三条第四項)ところ、本件ではいわゆる中間省略の許可がなされているのである。しかしながら、右農地法所定の農地の権利移転に関する県知事の許可の性質は、当事者の法律行為を補充してその法律上の効力たる所有権移転という効果を完成させるもであつて、いわゆる補充行為であるから、かりに訴外石川義高から原告へ中間省略の許可があつたとしても、売主である同訴外人と買主である訴外堀池庄太郎の売買、同訴外人と転買人たる原告の売買についてはいずれも県知事の許可を欠ぐので無効という他はなく、しかも売主たる訴外石川義高と転買人たる原告との間には所有権移転の原因となるべき行為が存在しないから、右中間省略の許可があつても、同訴外人と原告との間に所有権移転の効果は生じないのである(昭和三八年一一月一二日最高裁判所第三小法廷判決参照)。右中間省略の許可をもつて中間省略の登記と同一視することはできない。けだし、登記は対抗要件であつて後者では所有権移転という実体法上の効果は既に発生しているのに対し、許可は効力要件であつて前者ではそのような効果は皆無であるからである。

よつて、原告の本訴請求はその余の判断をするまでもなく理由がない。

乙反訴についての判断

かりに反訴請求原因一項記載のような売買が行われたとしても、その売買については何ら権利移転の効力要件たる農地法所定の許可を得ていないこと被告の自認するところであるから、被告は本件土地の所有権を取得することができない。

よつて、被告の反訴請求はそれ自体失当である。

丙結論

以上のとおりであるとすると、本件土地の所有権移転の効力は全て未だ生じていず、右の権利は訴外石川義高の許にあるということになる(原被告夫々主張の売買に基いて出捐した者があるとすれば、夫々不当利得ないし不法行為の法理に従つて、これを利得した者に対しその損失の填補を求むべきこととなるし、或いは改めて右訴外人との間に直接売買をし、これにつき農地法所定の許可を得なければならないことになる。本訴請求原因一項(二)記載の登記はこれに見合う実体法上の権利移転の効果が生じていない以上無効という他はない)。

よつて、原告の本訴請求、並びに被告の反訴請求はいずれも理由なきに帰するからこれを棄却することとし、訴訟費用については民事訴訟法第九五条第八九条を適用の上主文のとおり判決する。

(宗哲朗)

<目録省略>

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